継承者を必要としないこうした施設の充実だけにとどまらず、吉田住職は愛する人を亡くして悲嘆(グリーフ)を抱えながら地域で孤立している人々が繋がり合える場として「分かち合いの会」というグリーフケアの会を発足させた。
祖父祖母と一緒に暮らす従来の家族の形は、生と死のサイクルが見えやすい中で生活を送っていたため、親しい人が亡くなると、近所の人や家族が悲しみをケアしたり、慰めることが当たり前のように行われていた。
しかし、核家族化が進んだり地域との縁からも離れてしまった人が増えた現代では、配偶者などの「二人称の死」を、突然我が身に降りかかる想定外の出来事として個人が抱えきれなくなってしまう人が多い。
「愛する人を亡くすと人は誰もが悲嘆(グリーフ)にくれます。その悲嘆を軽減するプロセスをグリーフワークと言いますが、大切なことは安心して悲しみを悲しみ、苦しみや怒りなどを抑圧せずに受け止めてくれる場があることではないでしょうか。お寺がそのための擬似コミュニティとして機能していければと思い、分かち合いの会を発足させました」、と吉田住職。
他の人の話を否定してはいけない、同じ話を何回でもしていい、などの決まり事があるだけで、基本的には参加した人の話を皆で聞き合う。
準備を進めて秋のお彼岸の時期に第1回目を開いた。参加者は身の上話や故人の話などをしながら、同じ悲しみを抱える人同士で“暖かな時間”を共有した。
参加した人は「気持ちが軽くなった」「もう一度来たい」と話していたという。
今回は一処廟に遺骨を納めた人や檀家さんが参加したが、今後は檀家さん以外にも広めて年4回ほど開くことを考えているとのこと。
(平成20年12月) |